2002年5月11日に第2回リスクマネジメントセミナーが国立国際医療センター(東京)で開催されました。本セミナーでは、まず冒頭に厚生労働省医政局総務課医療安全推進室の新木一弘室長より、「今後の医療安全対策について」と題して2002年4月に報告が提出された「医療安全推進総合対策―医療事故を未然に防止するためにー」の概要の説明が行われました。続いて、国立保健医療科学院の政策科学部の長谷川敏彦部長より「医療安全をめぐる国際的潮流」と題して、米国、英国、オーストラリアの最新の医療安全対策についての最新動向と、各国で行われたカルテ調査に基づく医療事故発生頻度の報告がなされました。各国では、医療事故発生頻度に関して、数万件のカルテ調査が行われています。たとえば米国では、ニューヨーク(1984年)の3万件のカルテ調査やユタ州コロラド(1994年)では1.4万件のカルテ調査により医療事故頻度の推計がされています。そのほか、英国、オーストラリア、ニュージーランド、デンマーク等の同種の研究による医療事故頻度の平均は入院患者のおよそ0.432%であるという。長谷川部長はこの値を日本の年間入院回数13、000万回に掛けてみたところ、およそ日本国内の医療事故死は年間5.2万人という数が得られ、このうち各国の調査から判明した予防可能な死亡率は約60%を当てはめると、国内での予防可能な医療事故死亡件数はおよそ
2−3万人であるという。
また、シンポジウムでは以下の4名のシンポジストによる発表と討議が行われました。
会場風景
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会場風景
国立長野病院の武藤より現在、厚生労働省が行っているインシデント報告システムの調査結果と根本原因分析(RCA)の紹介がありました。京都大学医学部付属病院の嶋森好子
看護部長より看護現場における与薬に関するマイクロエラーの報告がありました。東京医科歯科大学歯学部付属病院の土屋文人薬剤部長からは医薬品関連の事故事例について具体的に事例報告がなされました。東邦大学医学部公衆衛生学講座の長谷川友紀助教授からは臨床インデケイターの医療安全への応用の解説がありました。最後に横浜市立大学医学部医療安全管理学の橋本迪生教授からは横浜市立大学付属病院で患者取り違い事件以来、職員が自発的に取り組んだ医療安全の種々の取り組み、たとえば人工呼吸管理研修プロジェクトなどの紹介がなされました。
全体を通しての印象ですが、医療安全への取り組みが次第に診療の現場に定着しつつあると感じられました。しかしながら、相変わらず医療事故が多発している現状も一方にはあります。2002年7月には東京女子医大の人工心肺に関連した医療事故により医師逮捕、同病院の特定機能病院取り消しや病院長更迭という事件も起こりました。また一部では重大な医療事故を起こした病院の保険医療機関取り消しの可能性についてもささやかれています。そして2002年10月からは診療報酬による医療安全管理体制未整備減算も始まります。
以上より、医療安全の課題は病院マネジメントの根幹に関わる問題、病院の存続にも関わる問題としての問題認識が必要であります。
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