第2回電子カルテセミナー報告
―電子カルテ導入のノウハウ―
NTT SI基盤研究所主幹研究員 津村 宏
医療分野の電子化は、医療マネジメント学会のメインテーマの一つになっています。その中でも電子カルテは、厚生労働省の政策という追い風もあり、各施設において導入が目前に迫りつつある重要課題です。電子カルテの機能に関しては、展示会・セミナー等で紹介され認知されつつあります。しかしながら、実際に導入する際の業務移行、訓練などの諸問題に対してどのように対処すればよいか指針がありません。そこで第2回電子カルテセミナー(2004年1月10日こまばエミナース(東京)で開催)では、「電子カルテの導入のノウハウ」をテーマに開催しましたので報告します。
特別講演1:厚生労働省医療技術情報推進室関室長は、医療政策面から「標準的電子カルテ開発に向けた厚生労働省の取り組み」と題して講演されました。厚生労働省では、平成15年度から標準的電子カルテ関連の一群の研究事業へ支援を開始するとともに、「標準的電子カルテ推進委員会」を設置しました。電子カルテが継続的・段階的に円滑に推進していくための枠組みや基盤について、機能、基本要件等に立ち返って、今日的な視点から再検討しています。システム更改時のデータ移行、施設間でデータの流通が行なわれるためには、標準化が必要不可欠ですが、いきなりアプリケーションの標準化を目指すのでなく、電子カルテを構成する各種システムの相互のインタフェースの標準化、その次に共通の基盤システムの上で各種医療システムが動作するような仕組みを検討しています。検討の詳細は、厚生労働省のホームページに掲載されているので是非ご覧下さい。
会場風景
特別講演2:NTT東日本関東病院石原先生は、「電子カルテシステム開発と導入のためのノウハウ」と題して講演され、電子カルテシステムの開発と導入の
|
|
ための、ワーキンググループの設置・運営方法、導入の訓練方法、障害時対応の訓練などノウ ハウを具体的に講演されました。導入後1ケ月間は、必ず障害が必ず起きるので障害時の業務運営方法の訓練は欠かせません。更に、導入後に行なった患者様、医療スタッフへの調査では、約73%の患者様が電子カルテを導入した診療体制に満足していることなどを報告されました。
特別講演3:国立成育医療センター病院大原先生は、「電子カルテシステム導入のポイント」と題して講演されました。導入に関するワーキングループの数こそ特別講演1の石原先生とは異なるものの、導入時の各職種の訓練時間や障害時の訓練など殆ど同じでした。また、大原先生が述べられた、成功の重要ポイントを幾つか上げると、@導入目的の明確化が重要で、電子カルテを入れることが目的でなく、病院の構造改革、職員の意識改革が目的である。A医療機関は、開発ではなく導入であると認識し、システム導入とは運用を決定することである。Bベンダーとの役割分担を明確にすること。Cトップの強い意志と担当への権限委譲が必要である。Dオタク的専門知識は有害になる。など大変参考になることを御指摘頂きました。
午後の部の演題1では「電子カルテシステム−日立の提案」と題して日立製作所の電子カルテシステムHIHOPS-HRを通じて、電子カルテシステムのもつ可能性について紹介されました。特に、日立製作所の電子カルテシステムでは、@情報の一元管理によるチーム医療の推進と診療の質の向上、A各種指示書・ドキュメントのペーパレス化、B原価計算を始めとする経営管理指標の提供、を特徴としています。特に、統合蓄積された診療情報データベースを活用したクリティカルパス作成機能、部門別・科別原価計算や仕官別原価計算機能を備えている点は、優れた特徴であると感じました。
演題2では「亀田医療情報研究所の提案」と題して亀田総合病院で開発してきた電子カルテシステムの目的と、電子カルテシステムがもたらした、医療内容、患者へのメリット、さらに、最新のWEBによるカルテ開示による医療の透明性の実現が、患者サービスに如何に貢献するかなど先進的な取り組みが紹介されました。また、デモではケアマップ(本学会のメインテーマであるクリティカルパスに相当する)が紹介されました。
今回のセミナーでは、電子カルテに関わる厚生労働省の各種検討会の委員長・委員を委嘱されている先生が座長をされたことも有り、会場からの質問に対して規定・標準化の背景や、真の意味などの解説が行なわれ、大変分かり易く内容のあるセミナーとなりました。
|