高齢化医療圏でのDPC診療におけるADL評価の有用

入江克実 浦川博樹 古賀満明
国立病院機構嬉野医療センター

【要旨】
 高齢者は主病名に加えて種々の併存病名を有することが多く、日常生活動作(ADL)の悪化を来しやすい。いわゆる介護難民が問題となる中で、ADL低下が在宅復帰を阻害することは認知されているものの、DPC診療に如何なる影響を及ぼすのか十分には検討されていない。今回、嬉野医療センターでDPC診療を受け退院した2058例を対象として、ADLと年齢・在院日数・転院頻度・DPC比率(包括支払/出来高支払)との関連を検討した。必須入力項目であるADLスコアをBarthel Indexに換算し60点以下を要多介助群として解析した。加齢と共に退院時要多介助者は増加し、在宅復帰困難な転院頻度と強く相関していた。在院日数は入院時ADL障害例で有意に延長しており、肺炎・狭心症・脳梗塞など多くの診断群分類で同様の関連が観察された。多変量解析を用い特定入院期間など他の要因を補正してケースミックスで評価しても、要多介助群の在院日数は2.57日(95%CI 1.30〜3.84)延長、DPC比率は0.047(95%CI 0.020〜0.067)低下していた。ADL低下は経営指標に大きな影響を及ぼしていたが、現状のDPC制度ではADLによる損益が十分に補填されていない可能性が高い。この経営リスクを回避するには、ADL評価を積極的に活用する医療マネジメントが必要と思われた。