<原 著>
入院前の在宅医療の有無からみたがんによる病院死の比較検証
−DPCデータを用いた膵がん症例の治療内容と死亡までの期間−


1) 藤森研司1) 伏見清秀2)

1) 東北大学大学院 医学系研究科 公共健康医学講座 医療管理学分野
2) 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医療政策情報学分野

【要旨】
 超高齢社会を迎えた日本において、国民の約半数が自宅で最期を迎えることを希望する一方、実際に死亡する場所の大半は病院であり、特にがんによる病院死の割合は高い。今後、がん患者が在宅で療養し最期まで過ごすことを希望する場合、それを実現していくことが重要である。本研究は、入院前の在宅医療の有無に着目し、入院から死亡までの治療内容や期間の違いを明らかにすることで、在宅療養の継続や看取りを実現するための方策について検討した。厚生労働科学研究費研究事業における3か年のDPCデータより、膵がんステージ4で病院死した症例について入院前の在宅医療の有無別に入院から死亡までの治療内容や期間の違いをみた。その結果、在宅医療がある場合はない場合と比較して、心肺蘇生や化学療法などの延命治療および積極的治療の実施割合が低く、また入院から死亡までの日数が短いことがわかった。本結果より、在宅医療がある症例は、延命治療および積極的治療を行わない旨の方針を決めており、かつ生命の危機に直結する状態となる直前まで在宅療養を継続しその後病院へ搬送され早期に死亡したものが多く含まれると考えられた。今後、早期からの緩和ケアおよび多職種による介入を推進し情報提供や病状説明の強化により、在宅療養を行うがん患者やその家族の療養上の不安を取り除き入院への意思決定を回避することで、在宅での療養継続や看取りを実現していくことが重要と考えられた。