<原著>
消費者の医療機関選択に影響を与える要因の受診経験による
差についての検証
−新規顧客と既存顧客の医療機関に対する評価の差から−


伊藤朱子1) 長瀬啓介2)
1)同志社大学商学研究科博士課程
2)金沢大学附属病院医療情報部

【要旨】
 消費者の医療機関選択に影響する要因を「技術的要因」、「人的要因」及び「アメニティ要因」に分類し、当該医療機関を経験したことがある消費者(既存顧客;経験者)と経験したことのない消費者(新規顧客;未経験者)の各要因に対する評価の差異について、共分散構造分析を含む多変量解析を用いて分析した。
 「技術的要因」、「人的要因」及び「アメニティ要因」の一部への評価は経験者と非経験者で有意な差が見られた(有意水準1%)。一方、「アメニティ要因」のうち待ち時間については有意な差は見られなかった。医療機関選択に影響を与える要因を見たところ、未経験者では「技術的要因」及び「アメニティ要因」が強く影響していたのに対し、経験者では「人的要因」が強く影響しているという差が見られた。
 消費者が各要因について評価を形成する過程は、今後の研究課題として残された。
 医療機関が地域に対するマーケティング戦略を展開する際、当該医療機関の未経験者である新規顧客と経験者である既存顧客とで、強く伝達しなければならない価値が異なることを意識する必要があると考えられた。