<事例報告>
アミノ酸輸液製剤の感染対策事例から学んだ、医師に行動変容を促すための感染対策チームの役割
鈴木 聡 三科 武
鶴岡市立荘内病院
【要旨】
この研究の目的は、鶴岡市立荘内病院(以下、当院)で発生したアミノ酸輸液製剤による敗血症事例をもとに、感染対策チーム(ICT)が院内感染対策の実効性を上げるために、医師に対しどのようにアプローチすべきか検討することである。アミノ酸輸液製剤中で増殖したセレウス菌汚染による菌血症が発生したことを踏まえ、従来のカテーテル関連血流感染予防対策の徹底とともにICTはあらたに2つの感染対策を医師に提案した。すなわち、1)アミノ酸製剤(製剤)への薬液の混合調製は行わない、2)製剤の点滴時間を最長8時間とする、の2点である。アンケートの結果、製剤への薬剤混合調製の禁止については賛成が78%、点滴時間については賛成が68%に上った。この結果をふまえ感染対策を実施した結果、入院棟内の薬液の混合調製はほとんどなくなった。さらに、1,000ml製剤を8時間以内に使い切ることの妥当性を考慮した結果、同製剤の処方数が大幅に減少し(前年同月の2.8%)、逆に500ml製剤が1.75倍に増加した。当院ではその後セレウス菌による血流感染事例を認めていない。このように、ICTは臨床現場の医師の意向を十分に反映させるための手段の一つとして、事前にアンケート調査等を行い、その結果を医師にフィードバックすることで比較的容易に対策の実施が可能になるものと思われた。医師が主としてかかわる感染予防対策では、病院管理職等からのいわゆるトップダウンで強制される対策では「やらされ感」が強くなるため医師への感染対策の浸透には不十分であると思われる。医師の行動変容を促すためには、医師の考え、戸惑い等を十分に把握したうえで解決策を提案する、いわゆるボトムアップの問題解決法が有効な場合があると思われた。