<事例報告>
包括支払い制度の臨床倫理上の問題点と対策

東 泰志 今村 博 新田吉陽 坂元昭彦 田辺 元

公益社団法人出水郡医師会広域医療センター 外科

【要旨】
 倫理的配慮に基づいた治療でありながら、出来高算定による診療報酬総額が包括支払制度上の診療報酬総額を超過した額(以下、医療経費)が生じた2症例を経験した。
 症例1は70歳男性。アルコール性重症急性膵炎の診断で緊急入院し、人工呼吸器管理や持続血液透析濾過法(CHDF)による集中治療により一旦は改善が得られたが、再増悪した。倫理的検討に基づき治療を継続したが入院22日目に多臓器不全で死亡した。包括支払い制度上の診療報酬総額は2,380,000円であり、従来の出来高算定による診療報酬の総額は2,870,000円であり、490,000円の医療経費が生じた。
 症例2は53歳男性。骨肉腫による末期状態の診断で緩和ケア病棟に入院した。疼痛管理に大量の麻薬投与を要したが、入院95日目に死亡した。包括支払い制度による診療報酬総額は4,886,780円で、出来高算定による診療報酬の総額は10,137,250円で、主に薬剤費による5,250,470円の医療経費を生じた。2例ともJonsenの臨床倫理的検討で治療方針を検討し妥当性を確認した。しかし、いずれも医療経費が発生し、種々の方策を模索したが適切な対処法はみつからなかった。
 倫理的判断に基づくより適切な診療を行っても、包括支払い制度下では医療経費が生じうる。このような際の公的補助の仕組みづくりが望まれた。